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第2回 木の雑学

木の使い方

~木も「背に腹は代えられぬ」~

腹を背中の代用にはできないことから、目の前の大事なことのためにほかのことを犠牲にするのはやむを得ないという意味で「背に腹は代えられぬ」という言葉が使われますが、木にも「背」と「腹」があるのです。

木の「背」と「腹」

木の「背」と「腹」木は、日当たりの良い側は枝葉がよく茂り、幹がいくらか膨らんだ形状になります。ちょうど、人間の背と腹と同じように、凸側が木の「背」になります。一般に、山の傾斜地では谷側が「背」です。反対に、いくらか凹んでいる尾根側は「腹」といいます。

背と腹を変えると大変

背と腹を変えると大変木は、山に立っているときから背側に膨らんでいるため、製材された後でも、反りが出ます。小屋梁は、凸面、つまり「背」を上側に、「腹」を下側にします。そうでないと、垂れ木になってしまいます。床下に使う場合は、逆に、「腹」を上にします。これは、「背」を上にすると反り上がって、床を持ち上げてしまう恐れがあるためです。木の「背」と「腹」を逆にしてしまうと大変。まさに「背に腹は代えられない」のです。

木はなぜ反るの?

木が斜面に立っているとき、その内部にはさまざまな力が働いています。例えば、風などの横からの力が働いたときに抵抗できるよう、樹幹の外側は常に上下から引っ張られているような状態になっています。これを「内部応力」といいます。木を製材するときに、まっすぐに挽いているつもりでも曲がってしまう「挽き曲がり」や、時間が経つにつれて現れてくる反りは、この「内部応力」が原因になっている場合が多いといわれます。また、部位によって乾燥による縮み度合いに差があることも、反りの原因になります。

木のクセ

あてにならないあて

あて針葉樹の丸太を切り分けたときに、年輪の一部が太く、濃い色になっている場合があります。これを「あて」といいます。これは、木が育った環境によって生まれる木のクセです。風や雪などで曲げられた樹幹を、本来の位置に戻そうとしてつくられる特殊な組織が「あて」です。針葉樹と広葉樹ではでき方が違い、針葉樹は傾斜した幹や枝の下側にできるので、「圧縮あて材」といいます。「圧縮あて材」は、正常なものと比べて色が濃く、乾燥したときに繊維方向に大きく縮みます。「あて」を含む材は、乾燥により反りや曲がりなどの狂いが生じやすいので、欠点のひとつとして扱われます。言ってみれば、「あてにならない」わけですが、これも厳しい環境を生き抜こうとした木の成長の証なのです。

だから適材適所

木のくせは自然環境によって培われる「背と腹」や「あて」のような木の「クセ」は、その樹種がもともと持つ性質に加えて、木の育った環境(斜面の傾斜、気象や気候、日当たり、水分、土壌、周りの木との位置関係や林分密度など)によって生まれるものです。同じ林でも斜面によって木の性質は変わりますし、同じ斜面でも谷側と尾根側で違ってきます。だからこそ、木を使うときにはあらかじめきちんと乾燥させたり、寝かせて内部応力を緩和させたりするほか、この「クセ」を見抜いて、「適材適所」に使っていくことが大切なのです。

木の名前

日本に限らず、木は昔から人々の生活に身近なものでした。そのため、国や地方によって呼び方が違ったり、商売上の特別な名前がつけられていたりします。

≪日本のレッドウッドとアメリカのレッドウッドは違う?≫

実は、日本でよく言う「レッドウッド」と、アメリカの「レッドウッド」は違います。集成材などによく使われる「レッドウッド」という呼び方は商品としての名前で、和名では「オウシュウアカマツ」と言います。名前の通り、ヨーロッパやシベリアで多く見られるマツ科の樹種です。一方、アメリカにも「レッドウッド」と呼ばれる木がありますが、これは「セコイアメスギ」というスギ科の巨木のことで、アメリカの西海岸に育ち、高さ100メートルを超える世界で最も樹高が高い木です。

ほかにもあるこんな名前

集成材などによく使われる「ホワイトウッド」という木は、和名では「オウシュウトウヒ」と言います。ヨーロッパのほぼ全域で見られる樹種で、「ドイツトウヒ」、「ヨーロッパスプルース」という呼び方もあります。また、よく「ラワン材」という名前を耳にしますが、これはフタバガキ科という植物の総称で、フィリピンでの呼び方です。フィリピンやインドネシアなど、熱帯地方に多く分布しています。同じ木のグループをインドネシアでは「メランティ」と呼ぶことがあります。

アテはアテでも

前にも出てきた「あて」は、一般的には木の欠点のことを言いますが、石川県の方言では「ヒノキアスナロ」を「アテ」と呼びます。石川県では能登地方を中心にヒノキアスナロが広く植林されており、建築や土木材のほか、輪島塗の木地にも使われています。また、県の木にも指定されています。ちなみに、ヒノキアスナロは、ヒノキ科アスナロ属に分類される針葉樹で、ヒバとも呼ばれます。

ベイマツはマツではない?

慣習で呼ばれる名前も多いことから、「マツ」という名前がついているにもかかわらず、生物学的にはマツの仲間ではない樹種がたくさん流通しています。

ベイマツは「トガサワラ属」

アカマツ、ベイマツ、カラマツ、エゾマツ、トドマツは「マツ」という名はついているものの、生物学的には違う仲間に分類されます。植物は、花や実の構造から分類されており、大きなグループを「科」、細かいグループを「属」と言います。「属」は、進化の過程をさかのぼったときに到達する祖先のことです。つまり、属名から樹種の仲間が分かるわけです。5樹種のそれぞれの属名を見ると、アカマツはマツ属、ベイマツはトガサワラ属、カラマツはカラマツ属、エゾマツはトウヒ属、トドマツはモミ属で、みな違う属に分類されており、心材の色や用途なども異なります(下表)。ちなみに、日本には単に「マツ」と言う名前の木はありません。マツ科マツ属に分類されている木のことを一般に「マツ」と呼んでいるのです。

樹種属名心材の色用途
アカマツマツ属淡赤褐色建築(梁・桁)、土木、箱、船舶、経木、木毛、パルプ
ベイマツトガサワラ属褐色~赤褐色建築(梁・桁・土台・造作・建具)、船舶、家具、枕木、合板
カラマツカラマツ属褐色建築(梁・土台・仮設)、土木、船舶、パルプ
エゾマツトウヒ属淡黄白色建築、パルプ、器具、土木、船舶、車両、包装、機械、楽器、経木など。特殊用途として、ピアノ響板、ヴァイオリンの表板、屋根柾など。
トドマツモミ属灰白色建築(板・貫など)、土木、包装、器具。特殊用途としてはモミチェスト、棺、卒塔婆(そとば)など。

スギじゃないのに「ベイスギ」

ほかにも紛らわしい名前はいろいろとあります。同じ「スギ」という呼び方でも、日本のスギは「スギ科」、ベイスギは「ヒノキ科」で、これは材の色がスギに似ていたことから呼ばれることになったと言われます。ちなみに、ベイヒ(米檜)、ベイヒバ(米ヒバ)は、ヒノキと同じ「ヒノキ科」、ツガとベイツガは同じ「マツ科」、ベイモミはモミと同じ「マツ科」です。このように、木にはその国や地方によってさまざまなネーミングがあるため、慣習で使っている名前が、実は違うものを指していたり、逆に違う名前でも同じものだったりということがあるのです。

樹種科名属名樹種科名属名
アカマツマツ科マツ属ベイヒヒノキ科ヒノキ属
ベイマツマツ科トガサワラ属ベイヒバヒノキ科ヒノキ属
カラマツマツ科カラマツ属ヒバ
(ヒノキアスナロ)
ヒノキ科アスナロ属
エゾマツマツ科トウヒ属ツガマツ科ツガ属
トドマツマツ科モミ属ベイツガマツ科ツガ属
スギスギ科スギ属モミマツ科モミ属
ベイスギヒノキ科ネズコ属ベイモミマツ科モミ属
ヒノキヒノキ科ヒノキ属
プロフィール
(財)日本木材総合情報センター発行「木材の基礎知識」より