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基礎と地盤の安全対策

今回は、基礎の設計と地盤について話したいと思います。私は日本建築学会の小規模建築物の基礎設計の手引きや、日本木造住宅産業協会による基礎設計の指針づくりに携わった経験などがあり、これからの住宅基礎の考え方に触れる機会も多いので、そのへんの考え方について話してみたいと思います。
東海大学 工学部建築学科 藤井衛 教授

現行の基礎設計の問題点  《不同沈下の原因が分からない》

構造計算を必要とするような中規模以上の建物は、不同沈下のような障害はあまり起きないし、起きても原因がはっきりしています。しかし、住宅の場合は原因がはっきりせず、裁判沙汰になってしまうケースが多いのです。これは基礎の設計方法に大きな問題があるためです。
建築物の上部構造は、風荷重、地震動、建物の自重といった外力に対して安全であるように設計し、基礎は上部構造の荷重を地盤にスムーズに伝達させるように設計することになっています。したがって、設計者は 「地盤調査報告書」 に基づいて基礎を設計するのですが、一般住宅の場合は地盤調査の費用がぎりぎりまで削られることが多く、地盤調査報告書が不十分なものになりがちです。
調査結果をそのまま信じて設計すると、基礎の選定を誤る恐れがあります。現地を直接見て、調査結果と照らし合わせるなどの補足作業がない限り、完全な設計はできないのが実情です。それなのに、安全な地盤かどうか分からないのに、地盤調査をせずに家を建てる会社もあります。もし、その家が傾いたら、いかなる理由があろうと責任を免れません。これは犯罪に等しい行為です。
不同沈下の原因を見えなくする理由がもう一つあります。仕様書やマニュアルによる設計が当たり前になっていることです。仕様書はいわば命令書です。住宅金融公庫の共通仕様書や大手住宅会社のマニュアルは、配筋方法やフーチング幅の寸法を命じています。しかし、仕様に基づいて設計をしても不同沈下はよく起きるのです。それは、構造計算をしていないのに仕様を命じているからです。
考えなくてもよい、苦しまなくてもよい、書かれてある図面を信じて施工すればよい。これは「信ずるものは救われる」という思想であり、技術者の成長を阻害しています。現地を見ていないから不同沈下の理由が分からず、結局裁判までもつれることになります。

地盤調査の基本知識   《地耐力をどうやって知るか》

基 礎は、地耐力に応じて選定することになっています。地耐力とは、支持力と建物の重みによる沈下量を満足する荷重度のことです。沈下には、海辺の砂浜におかれた状態のように比較的短時間に沈下する 「即時沈下」 と、長期にわたって沈下する 「圧密沈下」 の2種類があります。例えば布基礎は即時沈下で1.5、圧密沈下で3.5の範囲に収まればよいとされており、これを許容沈下量といいます。
さて、支持力と沈下量が分かれば地耐力が分かるという理屈なのですが、学問的な理論式を使って支持力と沈下量を求めるには、戸建の地盤調査としてはあまりに調査費用が高すぎて、この方法は使えません。もっとも、住宅基礎では正確に沈下量を求めるのが大切なのではなく、地盤の構成と地耐力の有無を知ることの方が大切ですから、次の方法で地耐力の大きさを設定してもらえば十分です。

地盤調査の基本知識   《地耐力を知る方法》

地耐力を知る方法基礎から地盤に力が伝わる範囲は基礎幅の2倍です。幅45cmの布基礎であれば90cmの深さまで直接力がおよびます。この範囲の地盤の調査をしっかりやっておけば、地盤が建物を支持できるかどうかを判断できます。
手順としては、まず基礎幅の2倍の深さまでスウェーデン式サウンディング試験をしてN値を出します。これを(旧)日本住宅公団地耐力式(=図1の1式)にあてはめると地耐力が分かります。土質が砂であればN値の0.8倍が地耐力の大きさで、沖積粘土であればN値そのものが地耐力を表します。N値が4であれば砂の場合は3.2t/までの荷重度に耐えられ、沖積粘土の場合は4.0t/までの荷重度に耐えられることになります。

※深さ8mまで調査が必要

それでは、基礎幅の2倍の深さまで固い地盤であれば、それ以上深いところを調べる必要はないのでしょうか。確かに住宅の自重そのものは非常に軽いので、地表面が硬ければ、深いところに軟らかい地層があったとしても圧密沈下は起きません。問題になるのはせいぜい2m程度までです。しかし、私は深さ8mくらいまでは調査する必要があると考えています。地耐力不足だけが不同沈下の原因ではないからです。地盤の構成、あるいは地下水の汲み上げや隣地の大きな荷重などの外的要因による不同沈下も多いのです (=図2)。こうした場合でも8mの深さまで地盤改良してあれば大丈夫です。設計者として、8m程度までは自信を持って大丈夫です、と言えるのが理想的だと思います。

地耐力不足と考えられるケース 地耐力不足と考えられるケース 地耐力不足と考えられるケース
地耐力不足と考えられるケース 地耐力不足と考えられるケース 地耐力不足と考えられるケース

現地を見ることの大切さ

スウェーデン式サウンディング試験をすれば、深さ10mまでの地層の構成と地耐力の推定はできます。道具は一式30万円ほどで買えますし、2時間も練習すれば、データの取り方や地層の構成の見方まですべて分かります。各会社でいくつかは持っていてもよいのではないでしょうか。また、地盤というのはいろいろな特性を持っていますが、地盤調査をしなくても風景で分かる場合があります。例えば、道路が波打っていたり、背の高い木が生えていないようなところは、それだけで地盤が悪いと気づかねばなりません。土は、細かくしていくと最後には水になってしまいますが、道路が波打っているのは細かい土が交通震動によって水のように波形の動きをするからです。また、背の高い木がないということは地下水が浅いところを流れる軟弱地盤だということです。表層部の硬さにだまされて調査をストップすると、基礎の選定を誤ります。調査結果よりも、自然の方が正しい答えを先に教えてくれるものなのです。それを読み取れない人が世の中にはたくさんいます。

不同沈下と建物の傾き  《傾斜角と変形角》

不同沈下と建物の傾き不同沈下は、建物が全体的に傾斜するか、部分的に傾斜するかの違いで、傾斜角タイプと変形角タイプに分かれます。実際には、傾斜角と変形角が複合されたような形で不同沈下が発生します。
傾斜角タイプは、住宅の外壁の傾斜角と基礎の傾斜角が一致しています。基礎の剛性が高いため、基礎と上部構造が一体化し、箱のようになって一定方向に傾くのです。この場合、上部構造にはほとんど被害は出ません。ただし、そこに住む人がめまいを訴えるなどのトラブルが発生します。私の経験では1,000分の6ラジアンで多くの人が不同沈下を意識するようです。

変形角タイプは、部分的に基礎の剛性が低かったり、鉄筋の本数が少なかったり入っていなかったりする場合に起きます。部分的に1,000分の3~5ラジアン変形すると、上部構造に亀裂や歪みが生じます。

トラブルが発生したら

施主からこれは地盤のトラブルではないかといわれたら、まず水盛り管を使うなどして一階床面のレベルを調査することです。もし、1に対して3の角度で、一定の方向性を有して変形していれば、地盤に原因がある可能性が大です。ある部分は1,000分の3傾いているが、方向性はないというのであれば、原因は別のところにあります。水盛り管の調査は医者の問診に相当します。今後は、地盤に原因があれば住宅会社の責任が問われる可能性が大きくなりますから、トラブルを未然に防ぐためにも、しっかりとした地盤調査と適切な対策工法が求められています。

軟弱地盤の基礎設計

安全な基礎の配筋方法住宅基礎の現状の性能水準はどの程度かというと、地盤の変動に対して十分に考慮されてはいません。これからの住宅基礎は、傾斜角は存在しても変形角は生じさせないようなものにしていかなくてはなりません。そのためには、図のように基礎の高い部分の配筋をダブルにした設計が必要です。

また、私が行ったこれまでの調査では、地耐力のない敷地で不同沈下を抑制する効果が認められたのは、小口径鋼管杭による地盤補強や柱状改良、表層改良といった地盤改良であり、べた基礎、いかだ基礎、布基礎などは効果がありませんでした。基礎が浅ければ効き目はないのです。べた基礎にすれば、どんなに軟弱な地盤でも大丈夫との考えは捨てなければなりません。スウェーデン式サウンディング試験からの基礎選び
深いところまで軟らかい土層が続く場合に、どう対応すべきかを示すフローチャートがありますので参考にして下さい。また、地盤補強、地盤改良の費用はどれもおよそ100万円です。例えば、柱状改良は土中に岩の柱ができるわけですから、この上に住宅をのせて傾くことはまずありません。

工法分類    工法の概要 (設備含) 経済性
(円)
施工能力 環境性
騒音
振動
排土 水質 その他











セメント系柱状改良 ・ソイルセメント柱状体を築造・改良長2~8m・設備:施工機械、ミキサー、サイロ、発電機 (スラリー式)70~140万円(粉体式)95万円程度 2~3日 エンジン音程度 改良ボリュームの10~15%(粉体式はほとんどなし) 近隣で地下水を生活用水にしている場合は注意 粉体式の場合は強風時の施工は好ましくない
表層改良 ・ユンボのバケットにより現土とセメントを攪拌転圧・改良深さ2m以浅・設備:ユンボ、転圧機械  50万円程度~80万円程度 改良深さ2メートルとして4日 騒音より振動が問題 掘削による土の膨脹に注意 掘削深さが浅く問題にならない
複合地盤改良 ・例えばQCB工法・生石灰とセメント、アルミを探削孔に投入し、脱水、膨脹、硬化・改良深さ:最大3m・設備:小型機械のみ 改良長3mとして約100万円 3日 問題なし 改良長3m、建物面積100㎡として排土量13.8m3 通常は問題にならない




細径銅管杭 ・例えばRES-P工法・直径48.6mm、最大長5.5mの銅管を回転貫入・パイルピッチ45~60cm・設備:施工機械 約70万円 2日 低振動・低騒音 なし 影響なし
軽量気泡コンクリート杭 ・例えばケイコンパイル・発泡ポリスチレン粒子を骨材とした軽量コンクリート杭・圧入工法により施工・杭長:4m・設備:施工機械 約120万円 3日 低振動・低騒音 なし 影響なし
こま型基礎 ・直径33cmまたは55cmのこま型コンクリートブロックを敷設・設備:ユンボ程度、主として人力施工 布基礎の場合100万円程度 2~3日 問題なし なし 影響なし

性能時代に向けて何をすべきか-品質管理の徹底を

皆さんがやらなければいけないのは、地盤改良の設計方法を知ることではありません。土に関する勉強をして、信頼できる地盤改良専門業者を選択できる目を養うことと、品質管理を徹底していくことです。来年には住宅品質確保促進法が施行されます。そうなると性能を明確にすることが求められるとともに、その性能を保証していかなければなりません。
例えば、お施主様に 「液状化現象に強い基礎をつくって下さい」 と要望されたらどうしますか。そういうときに、「大変な計算が必要で」 と逃げるのではなく、万が一のときにも修復が簡単なように、傾斜角が生じても変形角が生じないような設計をすればよいのです。あるいは無筋の基礎、公庫仕様の基礎、ダブル配筋の基礎の性能と費用の違いを説明して、どれにするか選んでもらう。そうすれば、施主が自分で選んでいるのですからトラブルになることも少ないでしょう。
一方、性能保証は品質管理の問題です。これまであまり触れたくなかった部分を、全面的に前に出していくことが必要になります。例えば、基礎にビスを打っておいて不同沈下の有無を定期的に測定するというのはどうでしょうか。こういうことをするのが性能保証です。勇気のいることだと思いますが、確実に他メーカーとの差別化になります。実は、竣工後5年間問題なければ、それ以後はほぼ不同沈下は起きないことが研究で分かっています。こういう発想を生むためにも、学問的な勉強をして知識を積んでもらいたいと思います。これからは、知識を持っている者が勝ち残っていく時代です。会社として努力するかどうかということです。積極的に打って出れば、地盤の問題は何ら恐れることはありません。

プロフィール
藤井 衛(ふじい まもる)氏
東海大学工学部建築学科教授
昭和49年東海大学工学部建築学科卒。同大学修士課程、博士課程、同大学助教授を経たのち、平成6年に東海大学工学部建築学科教授に就任、現在に至る。専門は土質工学で、建築基礎地盤の地盤改良の一種であるソイルセメントコラムの力学的性質および化学的性質に関する研究を行っている。地盤、基礎、床などの瑕疵問題に詳しく、講演活動も多い。