使用部材の見直しの一つとして、構造材を寸法安定性の高い乾燥材や、集成材へシフトさせようという動きがあります。引き渡し後の木材の乾燥収縮に伴う狂い、曲がり、割れなどに起因するクロスの亀裂、床鳴り、建具の開閉困難などを防ごうというものです。
今回の特集では、こうした一連の動きを受けて、今後需要が急増すると思われる乾燥材について、乾燥のしくみ、乾燥のメリット、社会的なニーズという3つの視点から基本的な知識をまとめてみました。
乾燥のしくみ
木材乾燥の目的は、単に水分を取り去ることではなく、製品で使用される条件下で木材の含水率があまり動かず、膨張や収縮が最小になるような水分状態にすることです。使う側もこのことを十分認識して、乾燥材を使い分ける必要があります。
1.含水率
乾燥材とは、乾燥処理した木材のことです。乾燥処理の方法は、天然乾燥法と人工乾燥法の2つに大別できます。天然乾燥は、屋外に木材を整然と積み重ねていき、太陽熱と自然に吹く風を利用して木材を乾燥する方法です。人工乾燥は、温度や湿度、風の流れなどを人為的に操作しながら、木材を乾燥する方法です。木材は通常水分を含んでいますが、水分の多い少ないを表す数値的な指標として、含水率が用いられています。含水率は、水分を除いた木材のみの重量(全乾重量)と、木材中に含まれている水分の重量との比で計算します。「含水率=(ある水分状態での重さ-全く水分がない状態での重さ)÷全く水分がない状態での重さ×100」(=図1)。 含まれる水分の重さが、まったく水分を含まない木材の2倍であれば、含水率は200%となります。含水率がしばしば100%を超えるのはこうした測定方法を用いるためです。
樹種 | 辺材 | 心材 | 樹種 | 辺材 | 心材 |
---|---|---|---|---|---|
スギ | 159 | 55 | ネズコ | 229 | 57 |
ヒノキ | 153 | 34 | ベイスギ | 249 | 58 |
アカマツ | 145 | 37 | ベイマツ | 115 | 37 |
モミ | 163 | 89 | スプルース | 142 | 41 |
エゾマツ | 169 | 41 | ベイモミ | 160 | 98 |
トドマツ | 212 | 76 | ミズナラ | 79 | 72 |
カラマツ | 83 | 41 | マカンバ | 77 | 65 |
サワラ | 155 | 38 | シナノキ | 92 | 108 |
2.平衡含水率
平衡含水率という用語もよく使われます。木材を大気中に長い間放置しておくと、生材は次第に水分を放出しますし、いったん低い含水率まで人工乾燥した木材は次第に水分を吸収します。いずれの木材も、最終的には水分を放出も吸収もしない、含水率が安定した状態になりますが、これを水分平衡の状態にあるといい、このときの含水率を平衡含水率といいます。平衡含水率は、樹種によっての差ではなく、まわりの空気の温度と相対湿度によって決まるため、地域、季節、時刻といった条件で変わってきます。したがって、木造建築に使用する木材は、使用環境に対応した平衡含水率近くに仕上げてあれば、住宅が完成した後の含水率の変動を最小限に食い止めることができます。ただ、天然乾燥で到達できる含水率の限界が平衡含水率であるのに対して、人工乾燥では更に低い含水率に達することもできるし、任意の乾燥状態に調整することも可能です。
室内で使われる木製家具用の木材や、内装材において人工乾燥が普及しているのは、我が国では住宅やオフィスで空調設備が普及しており、屋内においては地域や季節を問わず、平衡含水率が8~10%くらいになっているからです。どの地域で使われるとしても、室内環境を同一条件で考えることができるので、仕上げ含水率の目標数値を一律に定めることができるのです。一方、一般建築用材は部材の種類が多いのと、使われる部位によっても環境条件が異なるので、どこまで乾燥させればよいか、一律に決めるのは容易でありません。日本は平衡含水率がほぼ15%といわれていますが、使用場所に適した含水率を把握しておくことが大切です(=図2)。普通住宅を建てる場合の含水率の目安としては、構造材は、内部に高い水分が残っているところがないとして、16±2%。床材は床下がよく乾燥している場合で12±3%、床下に湿気がある場合は、床下の平衡含水率にあわせて含水率を決めます。乾燥しすぎた材を使うと、床下の湿気で床が膨れることになります。
3.水分のヒステリシス
平衡含水率が15%と推定される空気条件下に、生材といったん15%よりも低い含水率に乾燥した人工乾燥材とを同時に放置すると、生材は次第に乾燥しながら、また人工乾燥材は次第に吸湿しながら、互いに含水率15%の値に近づいていきます。しかし、生材と人工乾燥材双方の含水率は決して一致せず、最終的には生材の平衡含水率は人工乾燥材のそれよりも2~3%程度高い値で安定します。同一条件下では、人工乾燥した木材の方が天然乾燥した木材よりも、常に平衡含水率が低くなるわけです。このような現象を水分のヒステリシス(履歴現象)といいます。人工的に大きなエネルギーをかけて、天然乾燥では到達できない低含水率にまで木材を乾燥させるのは、水分のヒステリシス効果をうまく利用して、長期間にわたり高い寸法安定性を保つ技術なのです。
4.自由水・結合水
木材に含まれる水分は、自由水と結合水とに分けられています。木材細胞の内腔や細胞と細胞の間にたまっているのが自由水であり、細胞壁物質と化学結合して結晶状をしているのが結合水です。自由水は、木材から簡単に離脱させることができますが、結合水を木材と分離させるにはかなりのエネルギーが必要です。木材乾燥の実務を詳しく解説した書籍である「木材乾燥の実際」のなかで、著者の西尾茂氏は「布袋に水を入れたものが細胞だとすると、なかの水が自由水で布に浸みこんだ水が結合水と考えて良い。なかの水は袋を逆さにすれば簡単になくなるが、布に含まれた水は出し難い」と自由水と結合水の違いを説明しています。
5.繊維飽和点
乾燥が開始すると、まず自由水が除去されていき、含水率が30%付近に達すると自由水はなくなってしまいます。この状態を繊維飽和点といい、水分は結合水のみの状態になります。含水率30%以上の乾燥過程では、細胞壁の空隙に存在する液体状水分(=自由水)が除去されるだけであるため、木材の収縮や変形はみられません。自由水の多少は、木材の諸性質に全く関与しないわけです。ところが、乾燥が進行して含水率が繊維飽和点を下回ると、細胞壁中の結合水が除去され始めます。細胞壁中において、ある程度の容積を占める結合水の離脱が始まると、細胞壁は結合水が占めていた分だけ縮みます。つまり、木材は結合水がなくなった分だけ収縮することになります。 また、木材は繊維方向、放射方向、接線方向と3つの方向によって性質が異なり(=木材の異方性)、各方向の収縮率はおよそ4:60:100とされています。伸縮の程度が方向によって違うため、乾燥過程で材内に様々な力が生じ、反ったり、ねじれたり、割れたりといった現象が生じます(=図3・4)。乾燥過程に木材の内部に生じる力を乾燥応力といいます。
木材乾燥のメリット
木材乾燥の利点はいろいろありますが、クレームを防止する効果と生産性を向上させる効果の大きく2つに分けられそうです。
①狂いを防ぐ
含水率が30%以下になると木材は収縮し始めますが、木材の収縮に伴う狂い、割れ、隙間、継ぎ目の段差といった不具合は、部材を使用箇所に応じた含水率にまで乾燥させることにより防げます。針葉樹は一定の乾燥をして、さらに安定期間約6ヵ月を置くとほとんど狂わなくなります。(財)日本住宅・木材技術センターでは「建築用針葉樹材(乾燥材)の含水率基準」を策定していますが、それによれば、
- 柱類は20%以下(ただし、スギ、米ツガは25%以下)
- 敷居、鴨居、長押などは18%以下
- 床板、内装壁材などは15%以下10%以上
であれば支障となるような狂いは少なくなるとしています。
②変色・腐れを防ぐ
変色菌、腐朽菌などは、含水率20%以下に乾燥すればほとんど発生しません。木材の腐朽には自由水が不可欠だからです。
③木材の強度的な諸性能を高める
繊維飽和点以下では、乾燥するほど木材の強度性能が向上します。未乾燥材に比べ、釘や木ネジの保持力が向上します。また、木材収縮によりボルト結合部に隙間が生じ、結合力が弱まるのを防げます。
④塗装性や加工性、接着性が良くなる
接着剤が最大の効果を発揮する含水率は、一般に7~15%といわれています。
社会的なニーズ
「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が通常国会で成立し、瑕疵保証・住宅性能表示制度が来年度から導入されます。瑕疵保証制度は、新築住宅の取得契約について、基本構造部分の瑕疵担保責任を10年間義務付け、さらに任意規定として基本構造部以外も含めて20年までの伸長も可能とするものです。一方、住宅性能表示制度は、契約時に表示した性能水準を引き渡し時点で保証するものです。住宅も自動車などの工業製品と同じように、引き渡すときに基本性能を数値的に保証するとともに、使用中に生じた重大な欠陥についてはきちんと修理を保証する時代がやってきたわけです。狂いや不具合のない住宅を引き渡すのが、生産者の当然の義務ということになります。しかも、住宅は一般個人が購入する消費財のなかで、最も価格の高いものの一つです。住宅の生産・供給に携わるものには、社会的な責任として自社製品に対する品質保証が求められることになります。 「土台、大引き、梁、その他の構造材及び根太、間柱、その他の主要下地材は、乾燥木材(含水率20%以下のものに限る)を使用すること」と3月31日告示の「次世代省エネルギー基準」に規定されているように、住宅の基本性能を担保する気密性・断熱性の確保には、建築用木材の乾燥が不可欠との認識が、今や業界人共有のものとなっています。こうした認識が一般消費者に伝播するのも時間の問題で、そうなれば乾燥材の需要は急激に拡大することが予想されます。 しかし、現在のところ日本で生産される製材品のうち乾燥材の比率は10%前後に過ぎません。特に、国産材の代表であるスギ材は乾燥に時間がかかり、コストも高くつくことから生産量が少ないのが実状です。住宅メーカーの多くは、新しい時代に対応していくための材料として集成材を選択する方向に進んでいるのが実状です。住宅性能化のニーズに対応するためにも、国産材における乾燥材の比率がもっと上昇するよう早急に望まれています。こうした状況のなか、産官学の優秀な人材が国産材の乾燥技術の向上、生産量の拡大に向けて本腰を入れて取り組み始めています。国産材乾燥材の今後の動向に期待したいと思います。
人工乾燥製材品生産実績
昭和59年 | 平成元年 | 平成6年 | |
---|---|---|---|
全製材品(千立方メートル) | 29,423 | 31,168 | 26,824 |
人工乾燥製材品(千立方メートル) | 454 | 1,180 | 1,656 |
人工乾燥の占める割合(%) | 1.5 | 3.8 | 6.2 |
木材の乾燥に関する基本用語(本文中に出てこなかった用語)
辺材と心材…樹木を輪切りにした場合、中心部の色の濃い部分が心材、外側の色の薄い部分を辺材という。生材では、辺材の方が含水率は高い。
含水率計…含水率を簡単に計測する計器で、水分計ともいう。(財)日本住宅・木材技術センターでは高周波容量式の3機種を認定。
葉枯らし…伐採した丸太に葉をつけたまま林内に40~50日間放置し、水分を葉から蒸発させる。重量を減らして集材、運搬を容易にするのと、木材の色、とくに心材色をよくするのが目的。含水率の低下はそれほど期待できない。
イコーライジング…人工乾燥の過程における後処理の一つ。桟積内における含水率のむらを除去する。過乾材は吸湿させ、高含水率材の乾燥を促進させる処置。
コンディショニング…後処理の一つ。板の断面における水分傾斜や残留応力を除く処置。
(財)秋田県木材加工推進機構:コンサイス木材百科
(財)日本木材総合情報センター:「木材乾燥」のはなし
西尾茂:木材乾燥の実際、日刊木材新聞社
鷲見博史:木材を生かすシリーズ3・木材は乾かして使う、産調出版