素適住生活研究所
吸湿作用
木が湿気を吸うのは厚さ何ミリまで?
よく、「木は呼吸する」と言われます。これは、木の表面が湿気を吸ったり吐いたりする調湿作用のことを示しています。例えば、厚さ4ミリの1㎡のヒノキ板が含むことができる水蒸気の量は、8畳間程度の部屋が25℃のときに含む量と同じくらいだそうです。
では、木の調湿作用が働くためには、どのくらいの厚みが必要なのでしょうか?
1日の水分の出入りは厚さ3ミリまで
木がどの深さまで吸放湿しているかを調べた実験があります。それによると、1日の湿度変動で水分が出入りするのは、表面から3ミリ程度の深さまでということが分かったそうです。実験は、24時間周期で温度と湿度が変化する箱のなかに、側面をアルミホイルで覆った木片を入れて行いました。木片を一定時間ごとに取り出してスライスし、厚さ方向の含水率分布を測定した結果、含水率が変化するのは表面付近だけで、中心に近いところではほとんど変わらなかったそうです。
このデータを用いて、いろいろな周期で含水率が変化する深さを推定したところ、表のようになりました。
木の調湿効果を生かすには
この結果から、木の調湿作用を十分引き出すのに必要な木の厚さが分かります。一般的な単層フローリングは15ミリですから、1ヵ月周期の調湿に有効だと言えます。また、1年周期の場合は57.3ミリですから、12㎝角の柱がちょうど作用しているわけです。
このような調湿効果を生かすには、表面の仕上げに注意が必要です。集成材、合板、MDFのような木質ボードでも効果に差がありませんが、湿気を通しにくい塗装をしたり、フィルムで覆ってしまったりしては効果がありません。浸透性の塗料がおすすめです。
温湿度変化の周期 | 有効な厚さ |
---|---|
1日 | 3ミリ |
3日 | 5.2ミリ |
10日 | 9.5ミリ |
1ヵ月 | 16.4ミリ |
1年 | 57.3ミリ |
調湿に寄与する木の厚さ
参考:神奈川県木材業協同組合連合会木材再認識研修会資料
含水率
含水率が100%を超える木がある
「含水率」は、木材に含まれる水分の割合を言いますが、例えばスギの黒心(くろじん)では、含水率が100~200%と100%を超えることがあります。水分の割合が100%を超えるというのはどういう状態でしょう?「含水率」のカラクリを見てみましょう。
含水率の求め方
含水率は、「全乾重量」という木材が完全に乾いたときの重さを基準にしています。つまり、「(乾く前の)木に水分がどれだけあるか」ではなく、「水分の重さが、完全に乾いた木の重さと比べてどれだけあるか」を表しているのです。
一般に、水分の含まれる割合は全体の重量を基準にする「内分比」が多く用いられます。例えば、大根1本に含まれる水分の割合は、
(大根の重さ-完全に乾いた大根の重さ)÷大根の重さ×100
で表されます。
この場合、水分の割合が100%を超えることはありません。しかし、木材では、
(木材の重さ-完全に乾いた木材の重さ)÷完全に乾いた木材の重さ×100 のようにして求められるため、含水率が100%を超えることがあるのです。「木に含まれている水分の重さ」が「完全に乾いた木の重さ」を超えると、含水率が100%を超えるのです。
大根の水分割合(%)/木材の含水率(%)
木にまつわる故事・ことわざ
木にまつわるこんな言葉があるそうです。実際と比べてみて、どうでしょうか?
出典:「現代に生きる故事ことわざ辞典」㈱旺文社
木もと竹うら(きもとたけうら)
木は根の方(元口)から、竹は先の方(末口)から割るのが割りやすく、割れ目もすっきりと美しいという意味。生活の知恵から生まれた言葉です。
【マメ知識】現在、心持ちの柱材などの製材は、多くが末口から鋸を入れて行われています。これは、直径が小さい末口側から木取りした方が、歩留まりがよく、能率も上がるためです。しかし、この言葉のように高級材や役物を挽く場合は、木が育ったのと同じ方向に鋸を入れる元口挽きの方が、挽き目がきれいになるという見方もあるようです。
枝を伐りて根を枯らす
敵を倒すのに、手始めに末端を攻撃し、敵の本拠地が次第に衰えるのを待つ戦法のことを言います。木を枯らすには、まず切りやすい枝を切れば、自然に根におよんで枯れ衰えることからたとえとして使われます。
【マメ知識】一般的にはあまり行われないようですが、木を枯らす方法の一つに「巻き枯らし(まきがらし)」というものがあります。これは、ナタなどを使って樹皮と、樹皮の内側の成長部分である「形成層(けいせいそう)」を環状に削り落とす方法です。木は立ったまま、数年かけて枯れていきます。木が枯れるまでに時間がかかるため、虫害を受けやすいなどの問題もあるようです。
木七竹八塀十郎(きしちたけはちへいじゅうろう)
木は7月、竹は8月に切るのが望ましく、土塀は10月に土を塗るのが長持ちしてよいという意味。庶民の知恵から生まれた言葉です。いずれも旧暦。木六竹八塀十郎とも言います。
【マメ知識】旧暦の7月を現在の暦に直すと、8月中旬ごろになります。実際、木には「伐り旬(きりしゅん)」と言われる適切な伐採時期があります。地域や樹種によって異なりますが、秋から冬が良いと言われます。水分や養分を根から吸い上げて活発に生長している春から夏にかけて伐った木は、水分や養分が多く、カビや虫の害を受けやすいとされるため、この時期を避けた方が良いわけです。
鋸の柄は何でできている?
木の文化とも言われる日本には、昔から木の使い方についてさまざまな知恵が培われてきました。古くは、奈良時代に書かれた日本書紀にも、木の使い方を書いた部分があります。
日本書紀から伝わる教え
奈良時代に書かれた「日本書紀」には、日本に良い材料がないことを嘆いた素戔嗚尊(すさのおのみこと)という神様が、自分のヒゲや眉毛を抜いて地面にまくと、それがスギやヒノキ、マキ、クスノキなどの木となったと書かれています。そして素戔嗚尊は、「スギとクスノキは浮宝(船)に、ヒノキは瑞宮(みずのみや。宮殿のこと)に、マキは棺に使うように」と、木の種類とその使い道を命じています。
実際に、古墳などの遺跡から発掘される木製品は、船や建築材はスギ、木棺はマキでつくられているものが多いそうです。また、今でも神社仏閣にはヒノキが使われますし、川舟にはスギが多く使われています。昔からの知恵が今でも生きていることが分かります。
鋸の柄は何?
鋸の製造メーカーに聞いたところ、鋸の柄にはキリや、サワグルミが使われるそうです。これは、長い間使っても熱を持たないことや、加工しやすいことが理由のようです。ほかに風呂桶には水に強いヒノキ、ヒバ、スギなどが、つまようじには香りのよいクロモジが使われてきました。
弥生時代の古墳から見つかる木製品には、次のような樹種が使われていたそうです。昔の人々は、用途によって木の種類を使い分けて、木の文化を培ってきたのです。
- 船や建築材…スギ
- 農具…アカガシなどのカシ類
- 斧の柄…サカキ
- 容器類…ヤマグワ、ケヤキ
参考:神奈川県木材業協同組合連合会 木材再認識研修会 資料