住まいの犯罪が増えている~犯罪の急増・凶悪化
近年、犯罪が急増しており、連日のように殺人や強盗などの事件が報道されています。警察庁の統計によると、昨年、平成14年(1~12月)の刑法犯罪の認知件数は285万件を超えて、過去最悪を記録しました。174万件だった平成4年と比べると、この10年間でおよそ1.5倍に増加しています(図1)。さらに、近年の犯罪の特徴は凶悪化が進んでいることです。重要犯罪(殺人、強盗、放火、強姦、略取、強制わいせつ)が大きく増加しており、とくに強盗の認知件数は10年間で2.8倍に増えました。
住まいの犯罪が増えている~「侵入盗」も増加
住宅を対象とした侵入盗も増えています。侵入盗は一時期減少を見せましたが、平成10年ごろから再び増加傾向にあり、平成14年の侵入盗の認知件数は18万9,336件と過去最悪となりました(図2)。一方で、検挙率は低下を続けており、平成14年の侵入盗検挙率は27.4%でした。とくに、カギのシリンダー部分を操作し、家のカギをあけて侵入する「ピッキング」は、都市部で急激に増加し、社会問題となりました。この背景には、不良外国人の組織的犯罪の増加や景気の悪化などのほか、共働きにより留守がちな家庭が増えたことや、地域内の人間関係が希薄になったことなどがあります。
住まいに求められる「防犯環境設計」~犯罪手口から知る「ねらわれどころ」
犯罪の発生を防ぐために、まずは犯罪者がねらいやすい部分を知ることが大切です。逆に守るべきポイントが分かってきます。住宅への侵入盗は、家族が不在のときに侵入する「空き巣ねらい」と、夜間、家族が寝静まった住宅に侵入する「忍びこみ」、家族が在宅でも昼寝や食事をしているすきに侵入する「居空き」の3つに大きく分類されます。このうち、「空き巣ねらい」が最も多く発生しています。警視庁は、平成8年に「空き巣ねらい」の被疑者に対してインタビュー調査を行っています。これによると、約半数がねらう家やその周辺を下見しており、「人目につきにくい」、「窓ガラスを破り、クレセント錠を外せば簡単に入れる」ことを、侵入する住宅を選ぶ理由としています。また、侵入に10分間以上かかるとあきらめるとする被疑者が91%と多く、ほかに侵入をあきらめた理由には「近所の人に声をかけられたり、ジロジロ見られた」「補助錠が付いていた」「犬を飼っていた」「機械警備システムが付いていた」などがあげられています。
住まいに求められる「防犯環境設計」~防犯環境設計の4ポイント
建物や街路の環境の設計により、防犯を予防することを、「防犯環境設計」と言います。防犯に配慮した設計については、平成13年3月に国土交通省が共同住宅の設計指針である「防犯に配慮した共同住宅に係る設計指針(防犯設計指針)」を発表しています。これを参考として、住宅全般についても(財)都市防犯研究センターの「防犯環境設計ハンドブック」などが出されています。「防犯環境設計ハンドブック」によると、防犯環境設計には、・対象物の強化、・接近の制御、・自然監視性の確保、・領域性の確保の4つの原則があります。
①対象物の強化
対象物の強化とは、窓やドアなどの侵入しようとする対象を強くすることで、犯行を防ぎ、また犯罪企図者の意欲を低下させることです。具体的には、カギをピッキングされにくいものにしたり、窓ガラスを頑丈な「合わせガラス」にするなどの対策があります。
②接近の制御
ブロック塀やエアコンの室外機、1階の窓のひさしを足場にして2階の窓やベランダから侵入されたという被害が出ています。これらの足場を除くことも対策の一つです。また、塀や門扉を設けたり、境界部の見通しを良くすることも大切です。
③自然監視性の確保
警視庁の調査結果で、「ジロジロ見られた」ために侵入をあきらめたとあるように、「人目」は犯罪を防ぐ重要なポイントになるようです。高いブロック塀や暗い樹木など、外部からの視線をさえぎるようなものを除去したり、侵入者をセンサーで察知して点灯するライトを設置するなどの対策があげられます。また、防犯カメラを取り付け、カメラの位置を意識させることも有効だと考えられています。
④領域性の確保
これは、主に共同住宅に対して用いられる考え方で、自分たちの領域と外部との境界を明確にすることです。
大手ハウスメーカーも対応
さらに時代が進んで、超高層建築や高層住宅が立ち並ぶようになると、建築物そのものの軽減や耐火性はもちろんのこと、高い遮音性が要求されるようになってきました。これを受けて、厚手の石膏ボード(21㎜、15㎜など)を組み合わせたさまざまな遮音性能を持つ工法が開発されました。これらの工法は、国土交通省(当時建設省)の認定を取得しており、取得した認定の要項どおりの「正しい施工」が要求されます。そのため、当社では施工業者の方への啓蒙活動や、施工技術の研修会などを各地で行ってきました。戦後間もないころに行った「製品」を「技術」や「工法」と一緒に広めるというやり方が、ここにも強く受け継がれているわけです。昨年、東京都港区に「吉野石膏虎ノ門ビル」を建てました。これは、吉野石膏の持つ最新技術や情報を集めて、「未来への技術提供」を行う施設で、石膏製品の展示や遮音性能を比較できる設備のほか、施工実習室では施工技術の研修も行っています。
犯行の実態と犯罪者の心理
警視庁インタビュー調査(平成8年)の結果(財)都市防犯研究センター
「防犯環境設計ハンドブック住宅編」より抜粋
犯行をあきらめた理由を聞き、 さらにそのうちの1番の理由と2番の理由を聞いたもの
防犯環境設計のポイント
防犯性能の高い窓にする
フロートガラス | 網入りガラス | 強化ガラス | 合わせガラス | 防犯合わせガラス |
---|---|---|---|---|
最も一般的なガラス。 | 火災時にガラスが割れ落ちないよう金網を封入したもの。 防犯性能はフロートガラスとあまり変わらない。 | フロートガラスを加熱・急冷して強度を高めている。 道具によっては簡単に割れるため、 防犯性能は低い。 |
2枚以上のガラスの間に、 柔軟で強靱な中間膜をはさんで接着したもの。 | 2枚のガラスの間に、 多層の柔軟で強靱な中間膜をはさんである。 合わせガラスよりさらに防犯効果が高い。 |
窓
窓は、周囲から見通しが良く、接近されにくい場所に設置することが望まれます。そうでない場合には、用途に応じて、開口部を小さくしたり、施錠設備を強化したり、面格子などを設置して、防犯対策を講じることが重要です。また、出窓や窓のひさしが侵入の足場にならないような注意も必要です。
1階の出窓は上方への足場にならないように設置場所に留意する⇒
天窓は格子などで体が通らない幅に制御する⇒
ベランダ
2階以上からの侵入を防ぐには、ベランダが侵入経路として利用されないようにする必要があります。外部からベランダに侵入されたり、足場にされたりしないよう、設置する位置やほかの部位との位置関係、構造などに注意が必要です。また、侵入者が身を隠せないように、見通しを確保することが大切です。
ベランダの足場になるものとの位置関係に留意する⇒
柱建て式のベランダは侵入されやすい⇒
見通し
敷地内への侵入を防ぐためには、塀や生垣、植栽などで囲うことが必要です。しかし、外からの視線を完全に遮断してしまうと、犯罪企図者の動きが見えないため、建物に侵入されやすくなってしまいます。見通しを確保することが重要です。
勝手口は前面道路から見えやすい位置に配置し、見通しを確保する⇒
警視庁インタビュー調査(平成8年)の結果(財)都市防犯研究センター
「防犯環境設計ハンドブック住宅編」
2004.2.25掲載