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使い捨ての時代から使い込みの時代へ

長原建築事務所 代表取締役 長原晴次氏

木造住宅にこだわる

私は9年間住宅メーカーに勤めていたのですが、図面を描くだけ、あるいはつくるだけというのにはあきたらなくなり、両方やりたいとの気持ちから1991年、東京・世田谷区に設計と施工の会社を起こし、独立しました。私は、住宅の中でも木造住宅しかやったことがありません。どうしてかとよく聞かれるのですが、とにかく木が好きで好きでしょうがないというのが私の根本にあるからです。肌触りとか加工のしやすさの点で木は非常にいい。
 私自身、2×4工法であれば棟上げまで全部自分でやりますし、家具をつくるなどいろいろな試みもしています。今日まで一つずつ手づくりで住まいを提供してきましたが、木は科学的に見ても面白いことがたくさんあるということにだんだん気が付いてきました。

人が木に親近感を抱く3要因

人は自然に木を好きになってしまいます。なぜ木に親近感を抱くのでしょう。私は木が生物だからだと考えています。私たちが生き物だからこそ生物素材に親しみを感じるのです。例えば木製の家具が日に焼けて飴色になってきたのを私たちは 「よい色になってきた」 と感じます。ところがこれがプラスチック製の家具だったらどうでしょう。最初は濃いブルーだったのが、日に焼けて薄青色になったのを見ても、誰もよい色になったとは思いません。
 木に親近感を抱くもう一つの要因は、誰でもいじれる素材だということ。小さな箱をつくるにしても、ノコギリと釘とトンカチがあれば簡単につくれます。親近感という意味で考えると、誰でもいじれるということは非常に大きな要因です。3番目に、これが私はとても大事なことだと考えているのですが、住宅をつくるための素材として必然性があるということです。木はいうまでもなく棒状の素材です。桧や杉は天に向かってまっすぐ成長していきます。成長した木は切ればそのまま柱になり、梁になります。木造住宅は材料自体の特長を巧みに取り入れた構法なのです。一方、素材としてみると鉄はもともと鉄鉱石です。石の中から精練して鉄だけを取り出し、溶鉱炉の中でどろどろに溶かして固めてつくります。コンクリートは粉です。石灰石の粉にいろいろなものを混ぜて、最後に水和反応させてつくります。ところが不思議なことに、鉄筋コンクリート造の家にも大きな柱と梁があります。鉄筋コンクリートで家をつくるなら、粘土でこねたような卵のような家ができたり、丸いドームのような家ができたりした方がずっと自然なのです。

「使い捨て時代」 から 「使い込み時代」 へ

1997年3月に発行した「木造住宅の寿命をのばす本」(長原晴次監修、PHP研究所)は大変な反響がありました。木造住宅に不安や不満を持つ全国各地の人からお電話やお手紙をいただいたのです。こういう本にどうしてこれほどの反響があるのか。私は社会が変わりつつあるのではないかと思います。まさに、使い捨て時代から使い込んでいく時代への転換です。使い捨て時代には、ゴミ問題がこれほど深刻化するとは誰も予想しませんでした。木のめぐみ今は、リサイクル運動の広がりなどを背景に、私たちが子供のころ親や先生たちに聞かされた「ものを大事にしなさい」という言葉がまた聞かれるようになってきました。そして“もの”のうち、個人が所有する一番大きなものが住宅です。バブル時代には個人の住宅を壊してビルの建設用地を確保する「地上げ」が盛んに行われ、木造住宅は平均17年で壊されていました。更地が最高の財産価値を持っていたからです。ところがそういう時代はもう終わり、住宅を使い込んでいく時代になったのです。
では、木造住宅を長持ちさせるとどのような利点があるのでしょうか。一つはもちろん個人の経済的な利点です。1,000万円で建てた家に10年間住めば、1年当たり100万円のコストがかかりますが、20年間住めれば年間50万円のコストで済みます。
 一方では、地球レベルの利点があります。木造住宅を長持ちさせることが地球環境を守ることにつながるのです。地球温暖化の問題では、二酸化炭素(CO2)の発生をいかに削減するかが議論されています。木は二酸化炭素を取り込み、炭素(C)を蓄えて、残った酸素(O2)を放出するはたらきをしています。

水中の藻や草花も同様のはたらきをしていますが、木が最も活発です。こうしたはたらきをしている木を切って、材料に使う木造住宅はけしからんという議論も必ず出てくるのですが、それは違います。
植物も生き物ですから、動物と同じように酸素を吸って二酸化炭素を出す呼吸作用をしています。そして、木は成長してある程度の大きさになると、二酸化炭素を吸って酸素を出すはたらきがあまり活発でなくなります。呼吸と相殺でプラスマイナスゼロになるほどしか、二酸化炭素を吸わなくなるのです。そこで、大きくなった木を切って、そこに苗木を植えれば、苗木は大きくなるまでに大量の二酸化炭素を吸ってくれます。地球温暖化防止の観点からは、切った木はそのまま捨ててしまってもいいのですが、4寸角の正角がとれるくらいの大径木をただ捨てるのももったいない。燃やしてエネルギーにするのも手なのですが、せっかく吸ってきた二酸化炭素をもう1回吐き出すことになります。そこで、木造住宅を建てるのが一番いいということになるわけです。木造住宅を建てて、1年でも長く寿命をのばせれば、それだけ長く二酸化炭素を家の中にエネルギーとして固定できるのです。木造住宅に40~50年住み続けるだけで地球の環境を守っていることになリ、しかも家を建てる時に使った分だけの苗木を植林しておけば、40~50年間で植林した木が全部育ちます。そのときになって家を燃やして二酸化炭素を放出しても、植林した木が二酸化炭素を吸ってきた分だけ地球レベルで得になっているということです。

これから家を建てようと検討している方に、よりよい住まいづくりをしていただくために3つの提案をしてみたいと思います。

《木造住宅には白熱灯を》

私は15~16年前から、白熱灯と蛍光灯でいろいろなものを照らして見比べる実験をしています。皆さんも、実際に赤い薔薇を1本買ってきて、蛍光灯の下と白熱灯の下で見比べてみて下さい。白熱灯の下で見る方が断然生き生きと見えるはずです。ミルクや布など、もともと生きていた素材でできている製品については、みな白熱灯の下の方が生き生きとします。木造住宅の素材は生きていた木ですから、木造住宅にはぜひ白熱灯を使っていただきたいと思います。木よりも、もっと見え方の差が大きいのは住んでいる人間の顔の表情です。白熱灯の下では人間もきれいに見えるのです。だから、バーなど人間関係があるようなお店にいくと決まって白熱灯が使われているのです。

《1137.5モジュールの実践》

日本には、昔からの3尺=910というモジュールがあります。材料がそういう寸法でできているからです。ところが最近は、バリアフリー仕様への対応策の一つとして、1000モジュールの住宅を商品化するハウスメーカーも増えています。もちろん、これはクローズされた仕様ですから、私のように1棟1棟つくっているようなところでは1棟全体を1000のモジュールにするのは無理です。ところで、実は私のところでつくる住宅は開業以来100%、玄関・廊下・階段など特定部分の幅を910モジュールではなく、910の半分の半分、7寸5分=227.5だけ広げた3尺7寸5分=1137.5のモジュールにしています。
1週間くらい特定の1部屋を使わなくても平気ですが、住宅には住んでいる人が必ずそこを通らねばならない場所というのがあります。それが玄関や廊下や階段です。910のモジュールを壊さないで、今まで何となく手狭に感じていた部分のモジュールだけを広げているのです。
昔ながらの910のモジュールで廊下をつくりますと図2のようになります。そうすると、実際通れる幅は780くらいになると思います。階段は、図3の左のように三角形の板を2~3枚使ってつくります。これは、今でも一般的にやられている方法です。

【図2】廊下 【図】階段 【図4】トイレ
モジュール 階段のモジュール トイレのモジュール

私がいつもつくっている階段は図3の右のような階段です。広い踊り場がある階段になります。この踊り場は、人が1人寝れるくらいありますから、ここに書棚をつくったりもできて、とてもリッチな感じになります。部屋がその分、20くらい小さくなる計算になりますが、そんなことを補ってあまりあるほどのメリットをもたらす家ができます。
よく他社の設計の人から「先生は60~70坪の大きな家ばかり設計しているからそういうことができる。25~30坪でこれはできない」といわれるのですが、私は28坪、30坪の家でも100%こうした設計をしています。トイレも私の設計のほとんどが1.25倍のモジュールです(=図4)。すると、つい壁に沿って棚を作りたくなります。このモジュールにしますと棚の下を全部収納に使えます。
もともと4分の1に割っているモジュールですから、4倍すればまたもとの尺モジュールにのりますので、よい結果になるのです。
ところで、こうした設計は、最初からやらないとできません。プランニングシートにのせてあるものをあとからこうしたプランに書き直すのは不可能です。頭で考えてばかりいないで、書きはじめると一気にできますから試してみて下さい。
大手ハウスメーカーさんがやってるようなメーターモジュールもとてもいいことですが、コストをあげずに、誰でもすぐにできるという意味では、この方法が最良であると確信しています。

《窓には木製ペアガラスサッシを使う》

熱貫流率3番目の提案は窓のグレードアップです。家1軒は何千万円の買い物です。トータルコストはあらかじめ決まっています。そんななかでも、もし予算が許せば、第一に窓のグレードをアップさせることを提案します。断熱性能を高めるために、木製のサッシを使うのです。できたらガラスも2枚はいっているようなものが望まし
木製サッシのどこがいいのかを説明したいと思います。ここに壁の絵があります。中央には開口部があってアルミサッシが入っているとします。この壁全体を通して冬は中の熱が外に出て、夏は外の蒸し暑い熱気が中に入ってきます。内外に1度の温度差があって、1時間に1の壁を通過する熱量をkcalで表したものを熱貫流率と呼んでいますが、開口部以外の壁の熱貫流率は木造住宅で0.9です。
アルミサッシに普通の3~5のガラスが入っていたら開口部については6.0あります。壁の約7倍の熱がこの小さな開口部から出ていってしまうということです。もしここをガラス2枚にすると6.0の半分の3.0になります。ところが、このままだとガラスの周りのアルミニウムがベタベタに結露してしまう。なぜかというと熱伝導率という熱の通しやすさを表す性能値があるんですが、木は0.2なのに対してアルミニウムは175という値なのです。アルミニウムは木の百何十倍も熱を通しやすいので、窓ガラスの断熱性をあげて熱貫流率を3.0にしても、アルミニウムの部分はヒートブリッジ(熱橋)といいまして、熱をどんどん伝える橋のようになっていて、水滴だらけになってしまうのです。木製サッシで2枚ガラスだと3.0の半分の1.5くらいになります。目で見た感じは穴が空いているのに、何もない壁とそれほど変わらない熱貫流率を実現できるのです。だから木製サッシがいいのです。つまり、普通のアルミ窓だと壁の7倍ある熱貫流率が、ガラスを2枚にすると半分の3.0になります。木にすると、また半分の1.5でほとんどただの壁のようになるということです。したがって、壁体の断熱性能そのものをあげるのももちろん大切なことですが、コストに余力があったら、まず窓に予算配分をしていただくとよいのではないかと思います。

木造住宅に住むことに誇りをもって

木造住宅を大事に使い続け長持ちさせていくことができれば、木という大切な資源を減らすことなく、その再生のサイクルを循環させていくことができるわけです。これは素晴らしいことです。コンクリートや鉄、プラスチックなどには、とうてい真似のできない芸当なのです。私たちは、木造住宅に住むことをもっと誇りに思ってよいのではないでしょうか。私の話をきっかけに、これまで以上に木造住宅に愛着を持っていただき、長く長く住み続けていただきたいと思います。

プロフィール
長原 晴次(ながはら・せいじ)氏
長原建築事務所 代表取締役
1951年生まれ。一級建築士。某ハウスメーカーで設計を担当するが、それでは飽き足らず独立。長原建築事務所を設立し、天然素材である木にこだわった住まいづくリを実践する。木造軸組・ツーバイフォーだけでなく輸入木造住宅の導入にも積極的に取り組む。さらに「金槌を持った建築家」として自ら現場に赴き、責任ある施工を行っている。その誠意ある家づくりの姿勢と完成度の高さで、施主の信頼も厚い。